ニュースサイト宮崎信行の国会傍聴記

編集長・記者 宮崎信行 政治ジャーナリスト(元日本経済新聞記者)

幼保一体化法案は提出されず 情報公開法改正案、公務員給与関連法案、労働者派遣法案らは継続審査に


 国会史上5番目の会期220日間となった第177回国会ですが、残り4営業日となりました。

 「前川清成さん、被災者差し押さえ禁止法案を議員立法 「私たちの正義に反します」」のエントリーでご紹介した、参院民主党前川清成さんが提出した第177国会参法15号議案「東日本大震災にかかる義援金の差し押さえ禁止法案」は、与野党修正協議により、参院災害対策特別委員長提出の第177国会参法20号議案となり、衆院に送られ、8月23日(火)に全会一致で可決、成立しました。委員長(自民党)提出のかっこうになりましたが、事実上は、民主党政府外議員が筆頭発議者となった議員立法といえ、「前川法」と呼ぶべき法律ではないでしょうか。

 この法律は短いものです。読んだ限りでは、金融機関に限らず、自治体の税務課も対象になると思われます。

 私も含めて、一般に、被災者に寄せられた義援金を差し押さえる行為は、「とんでもない」「許せない」と思うでしょう。しかし、差し押さえようとする債権者も被災者だったり、被災自治体から見て「悪質な税金滞納者」かつ「自治体の中では程度が軽い被災者」かもしれません。そういった場合の差し押さえも禁止されるんだと思います。そういう状況を超越して国民の代表である国会議員の「私の正義が許さない」(前川さんの参院での趣旨説明)法律は、これは内閣提出では不可能であり、議員提出だからできたものだと考えます。

 日本国憲法第29条の「財産権は、これを侵してはならない。財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定めています。ところで、日本国憲法では、わが国の政治体制を議会制民主主義とハッキリ定めていますが、経済体制に関して、「自由主義経済」「資本主義経済」体制をとるという定めは実は、どこにも書いてありません。この29条の「私有財産」制、およびその権利の確保が、わが国が自由主義経済体制をとることの唯一の憲法上の根拠といえると思われます。そして、今までほとんど見過ごされてきた日本国憲法第83条の「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」という条文。これは「財政民主主義の定め」ということになりますが、これは私が第177通常国会をみながら、最もこの国会で光った条文なんだと思っています。

 2009年8月30日に多くの国民の期待を受けた政権交代でしたが、鳩山由紀夫代表が総理就任直前に、岡田克也幹事長を解任するという私にとっては暴挙と思える行動に出ました。そして、そのかわりに就任した小沢一郎幹事長が政府外議員の法案提出を禁止しました。そのため、議員立法与野党とも低調な状態が続き、さらには閣法まで低調となりました。菅代表になった第175通常国会、第176臨時国会も低調でしたが、第177通常国会から文科委、厚労委などで、首相経験者も含む超党派議連による議員立法が成功。その後、「3・11」による、政府の法案提出ペースの遅れに、どうやら自民党公明党が党所属の地方議員、推薦首長から突き上げられる事態(もちろん国のためには好結果)になり、ねじれ参院野党の提出法案が成立するなど、前回の衆参ねじれではなかったことが次々と起きました。

 小沢一郎幹事長は、民主党議員が国民の請願の紹介者になることを禁じる暴挙もしでかしました。請願権は、日本国憲法第16条に定められた国民の権利であり、大日本帝国憲法明治憲法)の第30条でも定められています。小沢(氏)の行為は憲法違反だった可能性があります。また、岡田幹事長は、「与党らしい規約作り」を定めていましたが、小沢幹事長は、民主党規約改定委員長だった川端達夫さんが文部科学大臣に入閣後、後任をおきませんでした。岡田幹事長は、代表の任期を「次の総選挙まで」と変えるつもりでしたので、現在のように「来年9月の代表選までのつなぎだ」というよく分からない議論はあり得なかったことになります。小沢信者のみなさんはホントウにこれで良かったのでしょうか。今、小沢さんが再び注目を浴びて、喜び勇んで日々を過ごしているのでしょうか。

 さて、会期が国会史上5番目の220日間でありながら、廃案(継続審査)となりそうな議案が出てきました。

 まず、公務員の給与関連法案は軒並み廃案となる見通しです。議会制度百年史を読んでいますと、この公務員の給与関連法案は以前の国会でもたびたび会期末攻防の材料となっていたようです。とくに、日本社会党野党第一党で「総評」が強く、かつ、政府機関として国鉄国労など)があったころは、会期末処理に失敗して、再度臨時国会を開いた例もあるようです。今後は、給与関連法案は、各組織の所管の委員会ではなく、一括して、内閣委員会に付託するという知恵もあっていいと考えます。

 閣法2号だった「所得税などの改正法案」はちぎって成立、ちぎって成立を2回やりながら、残った「法人税率の引き下げ」、「相続税率の引き上げと基礎控除額の引き下げ」は廃案ですから、この部分の税制改正は持ち越しということになります。

 前国会からの郵政改革法案は、特別委員会を設けながら、自民党が委員名簿を出さないなどの妨害により、趣旨説明だけで終わりそうです。

 社民党が力を入れていた、労働者派遣法案も、廃案が確実。

 民主党が野党時代の参院議員立法から、4通常国会連続で出している「地球温暖化対策基本法案」も、原発爆発によるエネルギー基本計画の見直しにより、前提がかわってしまい、廃案となる見通しです。昨年の第175通常国会で、衆院で可決し、参・環境委員会で採決直前まで行っていたのに、つくづく惜しいことをしたという感じです。

 条約の承認案件では、原発輸出に関連して、日本とヨルダンの原子力協定が間に合わず、議案としては審議未了となりそうです。

 また、会期末によく「法案成立率」というのが報じられるのですが、あくまでも参考程度にすべきです。なぜなら、内閣が重要法案を出していないケースがあるからです。例えば、菅直人首相が前回の第176回秋の臨時国会の平成22年10月1日(金)の所信表明演説で「幼保一体化を含む法案を来年の通常国会に提出する準備を進めます」と述べましたが、この法案は出ませんでした。また、行政刷新担当大臣だった当時の枝野幸男さんが意欲を示していた、裁判官によるインカメラ審査などを盛り込んだ情報公開法改正案も審議入りせず、継続審査となりました。

 ただ、民主党政権になって、ようやく、閣法が成立し、議員立法も通るようになりました。衆参ねじれなのによく行ったと感じます。気になるのは、補正予算(案)の編成・提出のペースが遅いように思えるのと、決算審査のペースが遅いことです。この辺は、自治体議会を見習うべきだと考えます。

 私も220日間というロングラン国会でしたが、なんとか完走できそうです。「3・11」以降、2ヶ月間ぐらい自宅でのネット傍聴に専念する心持ちになったのと、意外にお盆休みがあり、久しぶりに午前9時過ぎに起きる生活を楽しんだら、代表選で小沢氏の存在が復権してきてしまい、今通常国会冒頭の1月の「衆院政治倫理審査会での説明」と「党員資格停止」が何だったのだろうという気持ちで、心持ちが穏やかでなくなりました。

 1ドルが75円ということになり、国際基軸通貨「ドル」の終わりが始まりました。これにより、経済におけるグローバリゼーションはいったん、踊り場を迎え、ふたたび内向きなローカリゼーションになってくる可能性があります。もはやTPPの議論の前提さえ崩れ去った感もありますが、今国会が多くの法律が成立する第一歩となったことは喜ばしいことだと考えています。

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